ネットワーク技術

インターネットに代表されるIP通信は、近年のブロードバンド通信技術の急速な進歩もあって、一般社会に広く受け入れられ始めています。
しかしながら、これが従来の電信網/データ通信網に代わる社会システムの基盤として定着するためには、通信品質(QoS)の保証、あるいは制御のための技術開発が避けられません。
また、携帯電話や無線LANなどの急速な普及に伴って、シームレスかつセキュアなモバイル通信プロトコルが求められています。

これらの課題に研究開発段階から取り組み、帯域制御、経路制御、ポリシー制御をはじめ、移動端末に追随して継続的にIP通信を確保するような制御技術、プログラム可能なハードウェア(Network processor)を使用した超高速な経路制御装置、マルチホップアドホックネットワークでセキュリティを確保する技術などで成果をあげ、基盤技術キーテクノロジーの一画を構成しています。

開発者コメント

ネットワーク資源予約/ポリシー制御/QoS制御

RSVP/Intserv + COPS

IP網のネットワーク資源予約プロトコルとして標準化されたRSVPのシグナリング処理機構および統合サービス(IntServ)によるトラフィック制御方式を自前で開発し、PC-UNIXベースのルータとして実装した。
さらに、中央集権的なポリシー制御機構であるCOPSシグナリング処理部分とポリシーサーバを実装してRSVPに統合し、ネットワーク全体としてのトラフィック制御システムを構築した。

Diffserv TC

統合サービス(IntServ)によるトラフィック制御方式はフロー単位で記述されたトラフィック特性などの制御情報が複雑なシグナリング機構でネットワーク中に配布され、各ルータで内部状態を維持管理する必要があるなど、大規模ネットワークに適用するには無理がある。シグナリング機構を採用せず、簡素な識別子だけでトラフィックを識別する区別サービス(Diffserv)が標準化された。このDiffServ方式によるクラス分類とスケジューリング機能に特化した簡素なトラフィック制御システムを実装した。

QoS経路制御 (OSPF + OpaqueLSA)

経路制御プロトコルの1つであるOSPFでは、OSPFルータ同士がリンクのコストを互いに広告し合って、最短経路を分散的に計算することになっている。
リンクのコストは運用者が設定する整数であるため、1次元の値の大小比較によってのみ経路計算が行われる。
すなわちQoSを考慮した経路制御(同じ宛先アドレスでもQoSにより転送先が異なる可能性がある)を実施するにはこのままではうまくいかない。
OSPFルータ同士が広告するリンクのコストを多次元の値とし、各OSPFルータがQoSのクラス毎に経路計算を実施することでQoS経路制御を実現する。
既存の公開ソース「zebra」を基に、Opaque -LSA処理機能を追加して多次元のリンクコストを運搬するとともに、QoS毎の経路計算を追加した。

本システムの副産物として、Zebraプロジェクトに「Opaque-LSA」処理機能を提供した。さらにそこから分岐したQuaggaプロジェクトにも同機能が引き継がれた。

SOCKSの移植

ファイアウォールを越えるのにつかう技術。NAPTがTCP/IPのレベルで接続管理をするのに対しSOCKSはソケットのレベルで接続管理する。
認証を要求することもできるし外から内へ接続することもできる。ダイナミックリンクをつかえばプログラムを再コンパイルする必要もない。
HTTP Proxyがでてきてから人気がなくなったがSOCKSはプロトコルを選ばないのでもっとつかわれてもいいとおもうが。

移動体通信(MobileIP/携帯電話)

Mobile QoS

階層的に構成されたMIPv4(Mobile IPv4)のネットワークにおいて、個々の移動端末(MN)とホームエージェント(HA)との間のユーザデータ通信に関してエンドエンドでQoS制御を提供するようなシステムを実装した。
ネットワーク構成として、MIPv4で定義するモビリティエージェントの役割を担う各ノードはIPルータを兼ねており、これらノード間をVLANスイッチで接続する。
すなわちISOの通信モデル第2層と第3層それぞれで整合性の取れた識別子を設定し、エンドエンドのQoS 制御を実現することが本システムの重要な点である。

異種無線ネットワーク間の無瞬断切換

IEEE802.11系の無線LANと携帯電話のデータ網はそれぞれの特性が異なる。
前者は高速通信が可能だがアクセス可能な範囲が狭く、後者は広域アクセス可能だがデータ通信は無線LANより遥かに低速である。
無線LANと携帯電話のデータ網の両方のインタフェースを実装した携帯端末において、電波環境に応じて適宜インタフェースを選択してユーザアプリケーションのデータ通信を継続できるようなシステムを実装する。
本システムの重要な点は「隣接する無線LAN同士のアクセスポイントの切換」および「無線LANと携帯電話のデータ網の切換」の2段階の高速ハンドオフ動作を端末の移動に伴う電波環境の変化に応じて適宜実行し、エンドエンドのアプリケーション通信は途切れない(無瞬断)ように制御することである。

無線伝搬シミュレータ

携帯電話網における基地局と移動端末の間はもちろん、基地局間の中継回線にも無線リンクを用いるシステム設計が考えられる。
時々刻々と変動する無線伝搬状況(伝搬損失や誤り率など)を模擬した上で、ある無線リンクにデータパケットを送出する際に採用すべきQoSスケジューリング方式や帯域制御方式に関する様々なアルゴリズムを評価検討するためのテストベッドを実装した。

IP電話事業者の立ち上げ支援

インターネットプロバイダがIP電話事業を開始した当初は、急激に増加するVoIP加入者に通信設備の増強が追いつかず、特に夜間や週末に輻輳が頻発する状況がしばらく続いていた。
事業者に納入されたゲートウェイ機器の開発者と協力し、呼制御プロトコルであるMGCPやH.323の実装内容に関して高負荷時の呼損発生率を減らすよう改修した。

実験的ネットワークプロトコル実装

LMP解析ツール

GMPLS機器同士のリンク監視用シグナリングプロトコルとしてLMPが提案されている。
活発に議論が進められている当分野のIETFの標準化動向を追いかけながら、公開ソースのパケット解析プログラムである「ethereal」にLMPの解析機能を実装した。

ネットワークプロセッサ

一般のPC-UnixにおけるIPパケットの転送処理では、ネットワークカードで受信したIPパケットに関して転送表を参照して出力デバイスを決定し、再びネットワークカードに出力するという一連の処理はCPUが担っている。
このためパケット転送処理性能(スループットや転送遅延)に限界がある。ネットワークプロセッサと呼ばれるプログラム可能な特殊なハードウェアに転送論理を組み込んでおくことで、ハードウェア処理による高速な転送処理を実現できる。
モトローラ社製(当時)の「C-Port」製品を用いた超高速な転送装置を実装した。10万個オーダの経路を設定したGbEインタフェースでもワイヤレートの転送性能が得られることを確認した。

アドホックネットワーク

移動端末どうしで通信するときに基地局経由は無駄じゃないか、直接通信すれればいい、とアドホック。
直接でなくても他の移動端末が中継してあげれば離れていてもいい、とマルチホップ。
それなら基地局に届かない端末のために中継してあげることもできる、という訳でマルチホップアドホックネットワークはいろいろ使える。

しかし、そのための経路を見つけ、維持するのにはいろいろ難しさがあり、 さまざまなプロトコルが提案されている。
そこに更に新しい方式でしかも経路生成情報を秘匿しようというプロトコルを実装した。踏み石になったノード自身もどの経路に寄与しているか分からない、という秘匿ぶりで面白い。

シリアル通信ドライバ

TCP/UDPパケットをシリアルポート経由で転送するドライバ。
IPベースでない通信であることでセキュリティを実現する、という考え方だったが、リモートpipeの趣き。

輻輳シミュレータ

IPネットワークにおける輻輳発生および輻輳低減アルゴリズムの検証を行うためのシミュレータ。
このシミュレータはオープンソースのネットワークシミュレータNS2上のエージェントおよびアプリケーションとして作成した。
そのため、本シミュレータは、通常のNS2の操作と全く同じ感覚で扱うことができる。